インターネット通信はADSL
ADSLは、ツイストペアケーブル通信線路(一般のアナログ電話回線)を使用する、上り(アップリンク)と下り(ダウンリンク)の速度が非対称 (Asymmetric) な、高速デジタル有線通信技術、ならびに電気通信役務のことです。DSLの1つであり、日本国外では非対称であってもAをつけずに単にDSLと呼ばれることが多いです。
ADSL概要
既設のアナログ固定電話回線にデジタル情報を多重化して、家庭や小規模事業所からのブロードバンドインターネット接続に使用されます。また、近年携帯電話の普及と共に自宅に固定電話を持たない利用者も多く、音声通話との多重化をしない方式でも提供されますが、この場合も従来の音声通話用と同様の電話回線が利用される。音声信号と多重化するものをタイプ1、多重化しないものをタイプ2と言います。従来の公衆交換電話網を経由した従量制通信料金ではなく、月額定額料金で提供される場合がほとんどで、常時接続という利用形態が普及しました。イメージとしては、一般道路(既存の電話線)にレーシングカー(ADSLモデムによる高速データ)を2車線で走らせることで、高速化を図ると考えると、理解しやすいです。
日本国内におけるADSLの状況
実験1999年4月に伊那市有線放送農業協同組合にパラダイン製のADSLモデムを同社の社員が持ち込み、有線放送網での接続実験を行いました。同年8月27日に伊那xDSL利用実験連絡会が記者会見を行い、8月から9月にかけて伊那市有線放送農業協同組合でのxDSLの公開実験をすると発表し、その時のおもな参加企業は、長野県のプロバイダー事業者として富士通長野システムエンジニアリング及び長野県協同電算、システム構築を担当した企業は、KDDI研究所、数理技研、SunMicrosystems、xDSLの機材提供を行ったのは、住友電気工業、住友電設、ソネット、パラダインジャパン、NECでした。同年9月にJANISネット(株式会社長野県協同電算)が、長野市の川中島町有線放送農業協同組合の有線放送電話網を使って下り最高1.5Mbps・上り最高272kbpsのサービスを始めたのが、商業ADSLサービスの始めとされています。
サービス開始
東京めたりっく通信は、1999年12月24日に新宿新南口のユースビル一階で、ADSL/SDSL接続サービスのデモ・センター「新宿めたりっくバー」を開設しました。NTT電話網を利用した商用ADSLサービスは、1999年12月にコアラが大分市の一部を対象に、次いで2000年1月に「東京めたりっく通信」(後にソフトバンクBB へ吸収)によって、東京23区内の一部を対象に開始(申し込みは1999年10月頃から)されました。
普及
後にYahoo! BBやNTTのフレッツADSLなど、主要な電気通信事業者によるADSL事業が立ち上がり始めた2001年頃から、ブロードバンドインターネット接続の普及とIP電話の普及の牽引役となり、利用可能な地域の拡大と連動して急速に普及し、2001年はブロードバンド元年と言われました。2001年1月の時点では16,194回線だったのが、2001年12月の時点で、1,524,348回線になりました。
現在と未来
総務省の発表によると2003年12月末には1000万回線を突破しました。基本的には電話線があればそのまま利用可能なため、配線工事などの手間が少ないこともADSLの普及に貢献しています。現在も地方では光ファイバーが隅々まで敷設されていない地域も多く、FTTHの普及後もしばらくは一定のシェアを持ち続けると予想されまする。都市部では2003年頃から、光ファイバーを使い、より安定して高速な通信が可能なFTTHサービスがNTTなど数社によって始められており、利用可能地域の拡大とともにFTTHへ移行するケースも増えています。総務省の発表によれば、ADSLを主体とするDSL契約数は2006年4~6月期に減少に転じました。今後、FTTH利用可能地域がさらに拡大されると、ADSLからFTTHへの移行が増えるものと考えられます。 最新の総務省の発表によれば、2008年3月末に、光回線利用世帯がADSL回線利用世帯を初めて超過し、光回線への移行が進展しています。
ADSLの技術
ADSLの特徴として、一方の通信帯域を削ることで、もう一方により大きな通信帯域を割り当てています(非対称)。通常は下り(ダウンリンク)の速度が上り(アップリンク)の速度よりも高速に設定されています。これは、一般家庭などでのインターネット利用ではWebアクセスなどの用途が主となるため、ダウンリンクデータの容量がアップリンクデータに比べてはるかに多く、ダウンリンクを優先することで総合的にデータ通信速度を高速化するためです。既設のツイストペアケーブル通信線路で、アナログ固定電話による通話に多重化するため、音声周波数帯域(0.3~3.4kHz)を避けた、より高く広い周波数帯域を使用し、複数の搬送波を利用したOFDMなどのデジタル変調を使用し、ADSLモデムで誤り検出・訂正や回線にあわせた通信速度調整を行っています。そのため、従来の電話回線用モデムや低速仕様のISDNなどと比べて高速なデータ通信が可能ということになります。
通信規格
次の2種類の規格から、提供が始まりました。■G.992.1(G.dmt) : ダウンリンク8Mbps(148kHz~1104kHzの帯域を利用)・アップリンク1Mbps(26kHz~138kHzの帯域を利用)
■G.992.2(G.Lite) : ダウンリンク1.5Mbps(148kHz~552kHzの帯域を利用)・アップリンク512kbps(26kHz~138kHzの帯域を利用)
次のようなものが拡張規格として定められています。
■Annex A : 北米向け。
■Annex B : ヨーロッパのエコーキャンセラ方式のEuro-ISDNと同時使用が可能。
■Annex C : 日本の時分割複信のTCM-ISDNとの干渉を抑えるため、2つの伝送マップを持ちISDNの伝送方向に同期して切り替える。
以下のような技術を用いることにより、ダウンリンク 12, 24, 40Mbps、アップリンク 3, 5Mbpsなどと高速化されていきました。
■S=1/2 1/4 1/8 1/16 : 誤り訂正ビット列を効率化する。
■フルビットローディング(full-bit loading) : 1つの搬送波の1回の変調で送信するビット数を11~12から15ビットへと拡張する。
■ハイビットローディング(high-bit loading) : 1つの搬送波の1回の変調で送信するビット数を15ビット以上とする。
■ダブルスペクトラム方式(Double Spectrum) : 使用する周波数帯域を倍(最大2.2MHz)に拡張する。
■クワドラブルスペクトラム方式(Quadrable Spectrum) : 使用する周波数帯域を約4倍(最大3.75MHz)に拡張する。
また、アップリンクを低周波数側、ダウンリンクを高周波数側とすることで送受信の分離(周波数分割複信)をしているものが多いです。さらに、エコーキャンセラ(Echo Canceller)を使用し、アップリンクとダウンリンクの周波数をオーバーラップ(Over Lap)させ、ダウンリンクの安定化・高速化とともにアップリンクの高速化を図っているものもあります。
ADSLを使用する為の機器
ADSLモデム
ADSLモデムは、ADSL通信に用いられる通信機器です。ADSL通信経路の両端末である利用場所と電話局双方に設置され端末装置とも言いますが、一般的には利用場所側の端末装置をADSLモデムと称します。モデムによっては、IP電話用のアダプターとブロードバンドルーター機能を内蔵しているものもあり、ADSL信号でIP電話を利用することが可能な契約もあります。スプリッタ
スプリッタは、通話とデータ通信を同時に可能にするため、音声周波数帯を電話機・電話交換機へ、データ通信用の高周波数帯をADSLモデムへ、それぞれ周波数分割して接続するために用いられる機器で、分波器と混合器との役割を持っています。3つの接続口を持ち、加入者線からの配線をLINE端子、電話機をPHONE端子、ADSLモデムをMODEM端子に接続するのが一般的です。また、ADSLモデムに内蔵されている場合もあります。なお、アナログ固定電話による音声通信を使用しないサービス(タイプ2)の場合は設置不要です。ADSLサービス提供上の問題点
ADSLの通信速度
加入者線路は音声などの低周波伝送を満たすシールドなしツイストペアケーブルを使用しており、これを高周波伝送に転用しているため、その伝送特性が保障されておらず、速度や安定性などが設置条件によって大きく左右され、通信品質を保障することができません(ベストエフォート)。実際のところ、通常の使用環境では最良でも理論値の70~80パーセント程度となります。ADSLの速度低下の主な要因としては次のものがあります。影響が大きい場合は、速度低下のみならずADSL通信そのものを確立できない(「リンクアップ」しない)状況に至ります。
通信線路の損失
■電話局に設置された端末装置(DSLAM)からの延長距離
利用場所から局内端末装置までの距離が長いほど損失が大きくなり、通信速度が低下します。周波数の高い帯域ほど距離による影響が大きく、クワドラブルスペクトラム方式の場合は局内端末装置から1kmで理論値の半分にまで速度が落ちます。端末装置が置かれた電話局をGC局というが、ある利用場所からの加入者線路を収容している電話局(端局またはEO局という)が必ずしもGC局であるとは限りません。ADSLの普及が遅れている地域では、EO局からGC局までNTT東西によって内部中継されており、利用場所から局内端末装置までの総延長が長くなる傾向があります。なおEO局からGC局までの内部中継が光回線で行なわれている場合は後述の問題点「光収容」に該当します。
■「ブリッジタップ」など、分岐接続の存在による信号減衰
■主配線盤・端子函などでの接触不良による電気抵抗増大
外来ノイズ
■送電線・幹線道路・鉄道の架線などから放射される電磁波
■中波放送(AMラジオ)やアマチュア無線などの「周波数が競合する電波」(専用のノイズフィルターが市販されています。この問題は後のPLC通信において中波放送と競合する周波数帯を使用しない事に反映されている)
■ツイストペアケーブルの同一クワッドのTCM-ISDNとADSLの周波数帯域重複(いわゆる「ISDNからのノイズ干渉」)
しかしながら、線路情報開示システム(NTT東日本・NTT西日本)にアクセスして電話番号を入力すれば、電話局からの距離や回線損失などの回線の状況を知ることはできるものの(回線が光収容の場合はエラーになる)、実際には「契約可能区域」となっているにも係わらず、地方など交換局が疎になっている地域やノイズの多い地点などでは、速度が大きく低下する、または接続できない地点が存在することとなります。ただ、回線の通信速度が遅い問題や、接続できない(リンクできない)問題は、モデムの技術水準向上や各種の技術開発により、普及開始当初よりは大きく改善している。ADSLという技術自体が2000年代に入ってから実用化され通信方式として歴史が浅いこともあり、ADSLモデムのファームウェアを最新のバージョンに入れ替えるなどで通信状況が改善されることも多いです。業者の中には、通信速度が上がらない、通信できないにも係わらず解約に応じないと問題視されている事例もあり、国会などでも取り上げられました。現在に於いても無理な契約と顧客の無理解が重なり、開通後に「速度が上がらない」などの苦情が絶えないのが現状です。また、広告での「最大速度は理論値であり、必ずしも仕様通りの速度が出ない」ことへの注意書きの扱いが小さいとして、業界へ公正取引委員会からの指導も入りました。数十Mbpsといった理論上の最大速度は、恩恵を受けられる場所が電話局周辺に限定されることや、古いパソコンや初心者ユーザにはオーバースペック(過剰性能)の場合もあり、2003年頃から、下り1Mbps・上り512Kbps程度の、低速ながら低価格なサービスも登場しました。